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神輿うんちく学5
火事だ! 町会長のビルの二階においてある神輿が燃えている。
勇敢な消防士が炎の中を二階に駆け上がり、燃えている神輿を階段の下へ放り投げる。
神輿は黒焦げになりながらも助かった。
私は町会祭礼委員長の電話連絡を受け、急ぎ現場に車で駆けつけた。
投げ落とされたとき床に当ったために屋根金具の吹き返しが一枚取れただけで他には何一つ取れず、又ガタツキも無くその神輿は黒い顔をして静かにそこにあった。
今年の八月、東池袋のある町会で起こったことです。
1尺2寸の小型神輿で、屋根は唐破風型総漆塗、金箔マス組と軒面、七宝金具付きの仲々良い造りのものです。
私が総修理の依頼を受け、仕事を完成させ、納めて三週間目のことでした。
あと半月でお祭りだという時でした。
祭りを中止するのは、楽しみにしている子供達がかわいそうです。
私は当社の展示用の新品の神輿をお貸しして祭りを予定通り実行していただきました。
町会役員さん達はせっかく大修理したのに、と大変な落胆でしたが、私はいいました。
「とんでもない。この神輿は何と運の強い神輿か。不死身の神輿ですよ。火伏せの神輿だ。町の守り神なのですよ。総修理の前にこのような目にあっていたら、完全に燃え尽きていたでしょう。ところが皆様が費用を出しあい、総修理をしておいたからこそ、表面が黒くなっただけで生き残ったのですよ。」
実は、この神輿は初めに修理の相談を受け、現物を見に行ったところ、台輪にはヒビ割れが入り、全体にガタガタで子供達に担がせるには大変危険な状態でした。
そこで、下地の浮いている箇所は完全に剥がしてから順に下地塗り、上塗りの漆をしっかりと塗り、台輪の割れた部分は交換し、金具類はすべて本金鍍金をし直おし、各部分のガタ付きを無くすなど、徹底的に修理をしたのです。
その為、漆が火の勢いを防いだのです。又、投げ落とされてもビクともしなかったのです。
徹底的な修理をしておいて良かったなぁとつくづく思いました。
もし予算が少なくて化学塗料を使うなどケチな修理をしていたら、反対に火付きが良くなっていたというものです。
この文章が活字になっているころは、この神輿の運命は再度修理されて「強運の神輿」として活かされるか、あるいはそっくり別に造られ、現物は町の「火伏せの神輿」として御神体になっているか結論が出ていると思います。
この話は極端かも知れませんが、神輿の修理というのは神輿を綺麗に化粧直しをするというだけのことではないということが、充分お解かりいただけると思います。
適切な修理により数百年も生きつづけている神輿は沢山あります。
次回は具体的に神輿の修理についてお話しいたしましょう。
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